1976年鳥取大学卒業。2000年にご就任された岡山大学形成再建外科教授を経て、2004年より東京大学形成外科・美容外科教授、2017年より広島大学病院国際リンパ浮腫治療センター特任教授・形成外科科長にご就任。現在も手術・講演にご活躍されている。専門は超微小外来、リンパ浮腫、顔面神経麻痺を始め、多岐にわたる。海外講演・海外招聘等、多数行われ、世界中に知識・技術を継承されている。
CHAPTER01
私がマイクロサージャリーと出会ったのは、1977年秋ごろだったと思います。そのころ施設で遊離皮弁術を行い始めたところで、医局にマイクロサージャリーを練習できる環境が整ったことが大きかったですね。取り組み始めたらとても面白く、毎日仕事終わりから夜23~24時くらいまで5時間程度、マイクロサージャリーの練習を行っていました。自分としては、練習という意味合いより、ひたすら面白くて取り組んでいたというだけだったのですが、気づいたときには、穿通枝皮弁やリンパ管静脈吻合などいろんなことが出来るようになっていました。改めて振り返ってみると、このただひたすらに面白くて取り組んだ毎日の練習が、自分の礎となったと感じています。そのような中、河野製作所と出会いました。当時、河野製作所で一番細かった50μⅿの縫合針を持ってきていただいたことがきっかけです。それまでは他社の50μmの縫合針を使っていましたが、河野製作所の針は、長さがちょうどよくて、とても使いやすかった。河野製作所の縫合針を使いだした後は、臨床成績もよくなった記憶があります。質のいい手技には、鍛錬された技術と優れた道具が必要なのだと改めて感じ、道具の開発などにも興味を持つようになりました。
CHAPTER02
当初は国内で敬遠されていた穿通枝皮弁ですが、海外では多くの先生がともに取り組んでくれました。その縁で、今でも世界の先生方との交流がありますし、世界中のマイクロサージャンを目指す医師がアドバイスを求めてやってきます。そのおかげもあり、世界のマイクロサージャリーはどうなっていくのか、マイクロの未来を思い描く機会がたくさんあります。今一番注目しているのは、ロボットサージャリーです。このロボットが臨床で使えるようになったら、今よりも多くの人がマイクロサージャリーを行えるようになると確信しています。それは、どのようなことをもたらすのか?例えば、私がよく行うリンパ管静脈吻合手術は、現在はがんの切除術とは別の手術として、がんの切除後の合併症で起こってしまったリンパ浮腫に対して行われています。このロボットが導入され、婦人科医もマイクロの技術を使えるようになったら、がんの切除を行う手術をするときに、一緒に合併症を予防するためのリンパ管静脈吻合術もできるようになる。つまりは、もっと「予防的な手術」ができるようになっていくと考えます。
また、再生医療という面でも、自己の細胞を増殖させ、それを養っている極めて細い繊細な血管をマイクロの技術を用いて吻合できるようになれば、必要な組織をとるために新たな傷を作ってしまう現在の皮弁術が大きく改善することになると思います。さらには、ロボットサージャリーの微細な作業を行える技術を汎用させていくことができれば、肉眼には見えない世界の手術、“細胞や遺伝子レベル”での手術も行っていけるようになっていくでしょう。
CHAPTER03
このように多くの可能性があるマイクロサージャリーは、医療界の未来を切り拓いていく存在になっていくだろうと考えています。私たち形成外科医も自分の分野だけを勉強していけばいいという時代ではなくなってくる。他科の分野を勉強することはもちろん、遺伝子領域ではどのようなことが行われているのか、工学的な技術としては何があるのか、多くの事を勉強していかなければなりません。私もそうだったように、勉強する環境が整っているということが、技術を進歩させていくことには欠かせないと思っています。河野製作所の皆様には、ぜひ、若手の医師がどんどんマイクロにチャレンジできる環境を整えていただけたらと思います。
また、最近ではこれまでタブー視されていたがん治療後の性機能問題が見直されてきているように、これまでの病気を治すという視点を越え、これからは治した後の人生をどう充実して過ごしていただけるかが大切になります。そのためには、ロボットなどの技術革新だけではなく、患者さんに提供できる医療自体の質をどんどん上げていかなければならないと思います。そのような中で、外科医は、自分の技術を磨いていく“職人集団”であるべきと私は考えています。ロボットのような優れた技術を使いこなし、そこから得た新たな発想を基に医療を発展させていけるのは、まぎれもなく人間の叡智だけだからです。50μⅿの針を使ったあの時から、私は、河野製作所も、外科医と同じ、技術を誇る“職人集団”だと認識しています。患者さんの未来をより良いものにできるよう、今後も河野製作所の皆様には、職人の技をさらに研鑽していただき、知恵を継承して、ともに未来を切り拓いていく存在として活躍していただきたいと思います。